巻頭言

実装学会への思い入れ

下平 勝幸


 私にとっての電子機器は、大学時代は真空管、防衛庁の航空機を担当していた時代はミニチュア管/サブミニチュア管、宇宙開発に移った当時はトランジスタ、DTL/IC、ロケットが国産開発され始めてLSI、現在の人工衛星はコンピュータと変遷し、何か電子機器の大パノラマを見ている感があります。電子機器の生き証人だからでもないでしょうが、本年度の理事就任のご要請を受けた時は、私は喜んで承諾させて頂きました。それには私の思い入れがあるからに外ありません。防衛庁時代、米国の部品を試験しながら国産品のレベルを上げようと会社の皆さんに無理難題をお願いし、宇宙においても同様真空だ、放射線だとこれも相当ご無理をお願いしていました。従って部品の性能と信頼性を上げることばかり考えていました。そこにプリント板が現出し、それを初めて見たときは驚きました。その頃からMILスペックに"Packaging"と言う単語が目につき、これをどう訳したか記憶はありませんが、電子機器は部品と共にアセンブリ技術が重要であると認識した次第です。その後の経験から、特に部品故障の原因の多くが、はんだ付け、端子のストレス、接着、コーティングにあることに気がつきました。電子機器は部品と共にアセンブリ技術が重要であると認識することなり、モールド等の工作に起因する故障を経験するに及んで、今までは部品に注目し過ぎたと反省したものです。それが今や"Jisso"が国際語になるかも知れないとお聞きしますと時代の流れを感じます。現在の私の業務は、部品、その品質保証、アセンブリの評価、出来具合検査に中心をおいており、正しく実装の社会に浸っていると言っても過言ではありません。
 それに加えてもう一つ、この学会に思い入れる理由があります。日本でのエレクトロニクスの中心は今半導体、特にASICにあります。これまで各社は量産品に注力し、投資してまいりました。しかしコスト高の日本で量産品で利益、市場を確保することは至難の業です。その中にあって特定のIPのASICや複合部品では結構な力があり、加えて製造技術と一体の受動部品についても国際性が期待できそうです。そこで日本が強い分野を守るための努力が必要ではないでしょうか。その内の一つ、電子部品で担当されている各企業は、当面市場の大きい高機能部品、HIC 、MCM、アセンブリに力を入れておられますが、この際、是非利益が今は上がらなくても、こつこつとシンプルな受動部品にも幾分かの人材、研究投資の配分もお願いしたいのです。企業は第一に利益が必要です。一社で負担は無理でしょうから、そこで本学会に電子部品研究会を設置させて頂きまして情報の交換、将来技術の動向、特にピースパーツでない複合/集合技術としての受動部品を議論し、そして産官学の力を集め、かって日本の大きな市場であった受動部品技術を再度我々の手中に納めようと考えています。是非会員の皆さんのご理解とご支援をお願いいたします。ここでも会員の増強にお役にたてればと期待しております。

(JIEP理事)
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.4, No.2
)」巻頭言より


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