巻頭言

日本電子産業勝利の切り札:
有機的な垂直連携

桜井 貴康


 “There is an increased awareness in the industry that assembly and packaging is becoming a differentiator in product development.”(実装およびパッケージ技術が電子製品開発の差別化要因になってきている)というのは,ITRSと呼ばれる半導体業界の世界ロードマップに記された言葉である。このように現在,実装技術は世界的に大いに注目されている。半導体産業そのものほどは大きくないが,いわば,電子産業のキャスティングボードを握った格好である。
 数年前,脱メモリの意識を強めた日本の半導体業界は,システムLSI中心のビジネスに大きく舵を切った。そして,システムLSIを数年間追求してみて,いろいろ難しい問題点もわかってきた。本質的に異なる製造工程の素子をワンチップに混載するというのは,思いのほかコストやエンジニアリングリソースがかさむのである。メモリや高性能アナログなど,なかなか他社とは共有できない回路ブロックも多く存在することも認識されてきた。そのため,システムインパッケージなる概念が注目されている。複数チップをパッケージ内で組み上げて電子システムを作ろうというものだ。この方がTATが改善され,コストダウンができる場合も多い。
 さて,システムインパッケージでは,実装部分の設計と半導体チップの設計を連携させた方がシステムとして高性能になる場合がある。例えば,これから低電圧,高電流化する半導体チップはその電源供給線をパッケージなどの厚膜配線に頼った方が良い場合などがそれである。そうなると半導体チップとパッケージの協調設計(co-design)が望まれる。すなわち,実装と半導体設計,製造の有機的な連携がより良い電子システムを生み出すことになる。
 現在のCPUやDSPのトップメーカは自社でシステムも考え,半導体の設計もし,半導体の製造ラインも持って,最終製品の差別化に全力を注いでいる。すなわち垂直連携によって,高い利益率を維持できている。日本がメモリで成功した時期にも,設計と製造が有機的に連携することで高性能な製品を作り出し,勝利を導いた。もともと,日本では半導体設計,製造,実装といろいろな階層で高い技術力を誇っていた。しかし,グローバルな水平分業の中で利益なき繁忙に追い込まれてしまった。もう一度,今度は異なった企業間でそれらの異なる技術階層を有機的に垂直連携させることによって,他にまねのできないシステムソリューションを提供できるようになれば,それが日本電子産業勝利の切り札になることは間違いない。

(JIEP理事,東京大学,国際・産学共同研究センターおよび生産技術研究所 教授)
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.4, No.3)」巻頭言より


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