田中耕一さんがノーベル賞を受賞されたのが一昨年。それまでは、サイエンスで貢献しなければ遠い存在に思われていたものが、エンジニアの世界でも受賞に値すると人々の認識を変えた出来事だった。そして今年。青色LEDの特許を代表として、発明者への対価をめぐる訴訟判決が今年の1月から2月初旬にかけて矢継ぎ早にだされ、職務発明のあり方と研究者の処遇に関してさまざまな議論を呼んでいる。論議の是非はともかく、研究者について世の中の関心が高まったのは事実であろう。さらには経営の中でも、ひところは経営手法を習得するものとしてMBEがもてはやされていたが、ここ1~2年はMOT、いわゆる技術経営が取り上げられることが多くなり、技術と経営の両面に精通した人材を育てるため、全国の大学でMOT講座の導入が加速した。技術者がこれほどいろいろな場面で注目された時代は、これまでにあっただろうか?
日本の企業で社長にまで上り詰めるのは、技術系ではなく事務系と相場が決まっていた。かなり乱暴な言い方をすれば、会社経営は会計・経営のプロが行い、商品開発は技術者が行うと、入社時点からキャリヤが異なっていた。しかし市場の変化が激しい今日、技術の目利きが企業の存亡をにぎる鍵であることは間違いあるまい。当然、技術屋の目利きが問われているのである。ちなみに、今まさに上昇国家である中国では、中央執行委員は技術屋だと聞く。政治の中枢にさえ技術屋は重要な位置を占めているのである。
ある会合で、アメリカ人コンサルタントが技術マネジャーの備えるべき能力として、技術の専門性を有すること、マーケット分析と予測ができること、そしてビジネスモデルを作れること、の3点をあげていた。当然のことながら、研究の領域だけに閉じこもった専門家は技術マネジャーとしての資質を欠くことになる。技術を活用して新たな市場を創造し、実効できることが技術者に望まれている。
デジタル家電の好調をうけて、エレクトロニクス業界の景気に兆しが見えてきたのは、うれしい傾向である。ただし、モノづくりだけではグローバルで生きられないことも事実である。今こそさまざまな分野の技術屋が集まり、先を行く柱技術や市場を創造していく時である。本学会のように、材料から各種実装、設計や信頼性まで幅広い技術者の方々の英知と目利きを融合すれば、必ずや日本の産業が活気ついていくものと信じている。そのためには、技術屋ひとりひとりが知識を使いこなす知恵を磨いていくことが必要であろう。本会理事、編集委員会副委員長/日本電信電話株式会社知的財産センタ企画部 担当部長
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.7, No.3)」巻頭言より
×閉じる