巻頭言

 

Jisso 技術を「日本のお家芸」復興の柱に! !

 

長沢 幸一


   2004 年最大のイベントの1 つは,間違いなくアテネオリンピックであっただろう。日本代表選手の予想以上の活躍,一方期待を集めながらも敗退した競技等々,さまざまな話題を提供してくれた。とりわけ,体操,水泳,柔道等の「日本のかつてのお家芸」と言われた競技での躍進や,これまでメダルに縁遠かった競技での健闘に胸を熱くしたのは,私だけではなかったろうと思う。
   日本経済が失われた10 年間を経て,デジタル民生機器の活況に元気を取り戻しつつある今日,日本国民の志気をさらに高める効果が大きかったのは事実と思われるが,競技ごとの栄枯盛衰や選手個々人の成功と失敗などに社会の縮図を重ねる論調もまた賑やかとなった。あまり行き過ぎたアナロジーはどうかと思われるが,成功例と失敗例のコントラストも鮮やかであっただけに,マスコミがさまざまに解説してくれる記事の中に「肝に銘ずべき」教訓も実際のところあったのではないだろうか。
   人によって受け止め方はさまざまであろうが,私自身は「世界レベルで勝つための戦略と戦術」が成否を分けたように思う。競技者個人の才能はもちろん最重要ファクターに違いないが,彼らを世界で勝てる素材に育て上げ,本番で実力を発揮できるよう,肉体的にも精神的にも磨き上げたのは競技団体やコーチ等,チームの永年の「戦略と戦術」があったからこそであり,その成否が勝敗を分けたと受け止めている。
   ひるがえって日本のお家芸であった「電子産業」は,と言えば少々短絡的に過ぎるかもしれないが,デジタル機器の分野を柱に再び世界の頂点に立つ機会が確実なものになりつつあると期待できる。この分野の現在の躍進は,日本の機器メーカが永年にわたって培ってきた商品コンセプトと,それを使い勝手良く,買いやすい価格で実現するための電子部品のハード・ソフト技術がかみ合った賜物であろうと思われる。中でもJisso 技術が基盤技術として果たしている役割は大きく,小型・薄形・低価格といった商品の生命線を支えていると言っても過言ではないと思う。
   しかしながら世界の消費者の心を捉え続けるには,さまざまなニーズに素早く反応しなければならず,いきおい商品ライフも短く,モデルチェンジもめまぐるしくなる。このスピード感と,機器メーカ・部品メーカがソリューションを求めて連携するチームワークこそ「日本の電子産業のお家芸」ではないだろうか。Jisso 技術が日本のお家芸復興の重要な柱として役割を果たし続けるには,常に世界一流の技術を提供できる底力と企業間の切磋琢磨が必要であり,JIEP はそのコーチングスタッフのように先見性を持つことが求められている,…そんなことに想いを巡らした今夏の一大イベントであった。

本会副会長/株式会社ルネサステクノロジ 業務執行役員 生産本部本部長
「エレクトロニクス実装学会誌(Vol.7, No.7)」巻頭言より


×閉じる