サイエンスとエンジニアリングの 両輪でエレクトロニクス産業に 貢献
Science and Engineering: Dual Approach Contribution to the Electronics Industry
佐相秀幸
一般社団法人 エレクトロニクス実装学会 会長
この度、エレクトロニクス実装学会の会長を拝命いたしました富士通研究所の佐相秀幸です。私は富士通で、コンピュータ、パソコン、携帯電話等、ICTプロダクト全般の開発と事業に長い間携ってきました。スパコン「京」の開発総責任者を務め、全社の商品戦略を統括するマーケティング部門に軸足を移した後、2014年4月より富士通研究所に移り、研究戦略、研究経営に勤しんでおります。会員の皆様、宜しくお願い申し上げます。
これまでの私の経験の中で、実装技術の重要性を肌で感じてきましたが、今後のICTの発展の中で、更にその重要度が増していくと確信しています。IoTの進展に伴い、多種多様なウエアラブルデバイスやセンサーが登場し、マルチモードセンシング、ハーベスティング電源、高密度/堅牢/柔軟パッケージなど、複合的な実装が必要になってきます。また、クラウドを中核とする社会インフラとしてのICTシステムは、身の回りの空気のような存在に進化していくことが求められ、そのためには、人にとってのICTの接点となるデバイスや装置の小型・軽量・薄型化や、故障に強い構成、それらを低コストに実現する技術が不可欠になります。昨今、人工知能が注目されていますが、従来の左脳型コンピュータの延長線上にない、右脳型コンピュータを実現するためには、非常に高密度のチップ間接続や、消費電力を桁違いに低減する技術が必要になります。Mooreの法則に沿った半導体の微細化が限界に到達した後、実装技術による性能向上も期待されています。
しかし、実装技術の研究開発の方向性については、少しばかり見直しが必要だと思っています。過去において、最先端の実装技術をハイエンド製品向けに開発し、その後ローエンドに展開することを考えましたが、コモディティー化したスマートフォンに先端の集積技術が真っ先に採用される状況に変わっています。また、多様なニーズに応えるためには、少量のカスタマイズされた実装を短期間かつ低コストで提供できるような技術も必要となります。技術の質についても、考えていくべき点があります。上述の通り、実装への要求は多岐にわたり、増え、高度化していきますが、その中で研究開発のスピードも要求されます。“実装”に経験やノウハウがものを言う部分がある点は否定できませんが、サイエンスに裏打ちされたエンジニアリングであることが、真に強い技術であり、結果的に開発を短縮するものと考えています。それが、世界で戦える強い実装技術に繋がるものと信じています。
企業人の眼からしますと、エレクトロニクス実装学会において、サイエンスに強い大学の方々への期待は大きく、新しい技術に対して、産学連携でサイエンスとエンジニアリングの両輪をまわしていく場として、改めて発展できたらと思います。実装に対する様々な要求に応えていくには、インテグレートするセンスとサイエンスに裏打ちされた技術力が必要であり、それが製品の魅力や優劣を決めるポイントになると思っています。本学会の中で、新しい実装のアイディアが提案され、そこに日本の強みである材料技術が組み合わさり、更に、多分野の学会との交流、オープンイノベーション、そして、技術だけでなく、ビジネスモデルとエコシステムの構築にも活動範囲を拡張し、再び世界をリードしていける実装技術を生み出していきましょう。日本の、新技術を生み出す力が途絶えることなく、若い世代の方々が自由に革新的な技術の開発が行えるように、そして技術を引き継いでいけるように、尽力していきたいと思います。
株式会社富士通研究所 代表取締役社長
Vol. 18 No. 4 巻頭言より
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